仙腸関節性腰痛、いわゆる仙腸関節障害は、
仙腸関節ブロック(キシロカイン注射)が極めてよく効くため、
整形外科診療の中でも、かなりやりがいのある病態です。
多くの場合、
1〜2回の注射と理学療法で改善していきます。
「今まで全然よくならなかったのに」と感謝されることも少なくありません。
しかし、この疾患には、はっきりした特徴があります。
とにかく、見逃されやすい。
仙腸関節障害が紛れ込みやすい症例像
私が特に
「ここは一度、仙腸関節を疑った方がいい」
と感じるのは、次のような症例です。
- 腰臀部痛に下肢痛を伴うが、デルマトームと一致しない
- SLRT、FNSTはいずれも陰性
それでもMRIを撮ると、
- 軽度〜中等度の椎間板ヘルニア
- 「ギリギリ、このヘルニアで説明できそうな気がする」圧迫所見
が見つかる。
この瞬間、
思考がLDHに回収される。
これは、日常診療で非常によく起こる流れだと思います。
「説明できそう」に引きずられる危険性
MRIで異常が見つかると、
- 画像上は異常がある
- 症状と完全には合わないが、否定もできない
という状態になります。
すると、
「非典型だけどLDHだろう」
という判断になりやすい。
経験上、このタイプの症例の中には、
一定数、仙腸関節障害が含まれています。
神経痛っぽいが、神経ではない
仙腸関節障害による下肢痛は、
- 下肢に放散する
- しかしデルマトームに一致しない
- 神経伸張テストは陰性
という特徴を持ちます。
そのため、
「神経痛っぽいが、神経ではない」
という、非常に紛らわしい顔をしています。
実際、
内服治療はほとんど効いていないにもかかわらず、
漫然と神経障害性疼痛の治療が続けられている症例を
引き継いだことは、これまでに何度もありました。
なぜ仙腸関節障害は見逃されるのか
理由はシンプルです。
- MRIで“それらしい異常”が見つかる
- 仙腸関節障害は画像所見が出にくい
- 痛みの分布が坐骨神経痛に類似している
結果として、
「腰椎に異常がある以上、原因はそこだろう」
という思考に、自然と引きずられます。
しかし、
画像異常がそのまま原因とは限らない
というのは、腰痛診療の基本でもあります。
仙腸関節障害を拾い上げる視点
だからこそ重要なのは、
身体診察に戻ることです。
私が注射を提案するのは、
以下をすべて満たした場合です。
- 腰臀部痛が主訴
- 痛いところを指一本で示してもらうと、
PSISまたは仙結節靱帯を指す - 座位で疼痛が増悪する
- PSISに明確な圧痛がある
この条件が揃えば、
仮に前医で腰椎椎間板ヘルニアの診断が付いていても、
「まず、仙腸関節を疑ってみる価値がある」
と考えています。
注射は、診断そのものになる
仙腸関節ブロックは、
治療であると同時に非常に優れた診断ツール
でもあります。
エコー下で針を進め、
- いつもの痛みが再現される
- 注射後に疼痛が軽減する
この2点が揃えば、
「少なくとも、主犯はここだ」
という確信が得られます。
この情報は、
少なくともこの文脈では、
MRI所見よりもはるかに実践的な診断価値を持ちます。
まずは「効く仕事」を経験してみる
仙腸関節障害は、
- 診断と治療効果の距離が短い
- 成功体験を得やすい
- しかし、意識しないと拾えない
という、少し不思議なポジションの疾患です。
だからこそ、
- デルマトームに合わない下肢痛
- SLRT/FNST陰性
- 「ギリギリLDHで説明できそう」なMRI
この組み合わせを見たとき、
一度、仙腸関節を疑った診察をしてみる。
それだけで、
患者の経過が大きく変わることがあります。
おわりに
仙腸関節障害は、
画像で捉えにくいために見逃されやすい腰痛です。
画像に引きずられすぎず、
神経に回収しすぎず、
それでも「何でも仙腸関節」にしない。
その前提に立ったうえで、
一度、注射で確かめてみる
という選択肢は、
思っている以上に合理的です。
「効く仕事」を経験することで、
腰痛診療の解像度は、確実に上がります。
おしまい。



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