安定型大腿骨頸部骨折の整復はすべき?【エビデンスに基づいて】

医療

安定型大腿骨骨折の治療において、整復の是非は意見が分かれるところで、施設によって異なる判断があると思います。

そこで今回、整復の是非を 二つの軸 で整理します。

  • Fracture factor:骨折そのものの形態
  • Patient factor:患者側の条件(特に免荷可能性)

フレームワーク①:Fracture factor

― 骨折形態が示すリスク ―

1. 後捻変形(posterior tilt)

安定型大腿骨頸部骨折において、
最も一貫したエビデンスが示されているのが後捻変形です。

後捻変形と治療成績

Palm らは、安定型骨折(Garden I–II)に対する内固定例を解析し、

  • posterior tilt >20° は再手術の強い予測因子

であることを示しました
A new measurement for posterior tilt predicts reoperation in undisplaced femoral neck fractures: 113 consecutive patients treated by internal fixation and followed for 1 year Acta Orthop. 2009)。

その後の研究でも、

  • posterior tilt >20°
    → 治療失敗リスクが約4倍

と報告されています
More than 20° posterior tilt of the femoral head in undisplaced femoral neck fractures results in a four times higher risk of treatment failure Eur J Trauma Emerg Surg. 2022)。

さらに、
60歳以上・1,500例超を対象とした多施設研究では、

  • posterior tilt >20°
    → 再手術・治療失敗の独立した予測因子

であることが示されています。

Preoperative Anterior and Posterior Tilt of Garden I-II Femoral Neck Fractures Predict Treatment Failure and Need for Reoperation in Patients Over 60 Years

重要なのは、

「転位しているか」ではなく、
「後捻という不利な形態をすでに持っているか」

が問われている点です。

後捻を整復すれば解決するのか

直感的には、
後捻が悪いなら整復すべき、と思います。

しかし同じ研究群では、

  • 後捻変形を整復しても、再手術率は必ずしも低下しない

ことも示されています。

つまり後捻変形は、

  • 予後不良を示す マーカー ではある
  • しかし整復によって完全に相殺できる因子ではない

という位置づけになります。

ただし、後捻変形を整復すると、より長いスクリューを挿入できること、またスクリュー挿入の難易度が下がるという観点から、整復はした方が良いと考えます。


2. 外反変形(valgus angulation)

外反陥入型の安定型骨折は、
一見すると安定して見えます。

しかし Risk factors of avascular necrosis of the femoral head and fixation failure in patients with valgus angulated femoral neck fractures over the age of 50 years Injury. 2016 Dec Hyung Keun Song MDの報告では、

  • 外反変形 >15°
  • 後捻変形 >15°

が、

  • 無血管性壊死(AVN)
  • 治療失敗(failure in treatment )

の有意な危険因子であるとされています。

特に、

  • 外反+後捻ともに >15°

の症例では、

  • 治療失敗リスクが 約17倍

に跳ね上がります。

外反陥入部が
内側回旋動脈の分枝(上被膜下動脈)の走行と一致する、
という解剖学的背景も、
リスク増大の一因と考えられています。


3. Fracture factor から言えること

Fracture factor の観点では、

  • posterior tilt
  • valgus angulation

はいずれも、

  • 骨折の中に隠れた不安定性

を可視化する指標です。

そして、

  • 後捻 >15°
  • 外反 >15°
  • あるいはその組み合わせ

を示す骨折は、

形態的には安定型でも、
生物学的・力学的には不利

と言えます。


フレームワーク②:Patient factor

― 免荷できるかどうか ―

ここで、Fracture factor とは独立した、
もう一つの重要な軸が登場します。

それが Patient factor です。

この文脈では、ほぼ一点に集約されます。

免荷が可能かどうか


免荷可能な患者

65歳以下を対象とした研究では、

  • 外反変形を整復してから固定した群は
    • 頸部短縮が少なく
    • Harris Hip Score が良好

であったと報告されています。

つまり、

  • 免荷が守れる患者では、
     外反整復は機能的メリットをもたらす可能性がある

ということです。

Fracture factor が許容範囲であり、
Patient factor として免荷が可能であれば、

  • 後捻を整復
  • 残存する外反も可能な範囲で整復

という戦略は合理的です。


免荷が困難な高齢患者

一方で、

  • 免荷が守れない高齢患者

では状況が変わります。

外反をきれいに整復しても、

  • 荷重とともに telescoping が進行する

ことは珍しくありません。

多くの場合、

  • 最終的には許容範囲に落ち着く

のですが、

  • どこで止まるかは経過中わからない
  • その不確実性が、術者・患者双方の不安になる

という問題があります。

そのため、

免荷が困難な高齢患者では、
外反整復はあえて行わない

という選択は、十分に合理的だと考えています。


Fracture factor × Patient factor で考える整復戦略

ここまでを整理すると、
整復の判断は次のように整理できます。

Fracture factor が軽度:後捻・外反ともに軽度 × Patient factor が良好(免荷可能)

であれば、積極的に整復して骨接合


Fracture factor が不利:

  • 後捻 >15°
  • 外反 >15°
  • あるいは両者の組み合わせ

であれば、そもそも骨接合を選ぶか再考
(BHA を含めた治療戦略の検討)


Fracture factor が中等度 × Patient factor が不良(免荷困難)

後捻のみ整復、外反は in situ に近い固定


ちなみに、それぞれのパラメータの測定には、CT再構成を依頼すると便利です。

頸部・骨幹部を中心としたCoronalスライスでGarden index(外反変形)を、

頸部軸に並行に切ったAxialスライスで後捻変形を

それぞれ測定するのがおすすめですので、そのように放射線科に依頼すると良いでしょう。

まとめ

安定型大腿骨頸部骨折における整復は、

  • 転位の有無ではなく
  • Fracture factor(骨折形態)
  • Patient factor(免荷可能性)

の組み合わせで考える問題です。

この二つを切り分けて考えることで、

  • 整復すべきか
  • どこまで整復するか
  • そもそも骨接合を選ぶか

が、かなり明確になります。

安定型、という言葉に安心しすぎない。
その中身を分解して考える。

それが、
この領域での判断を一段クリアにしてくれると思います。

おしまい。

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