【2次救急】ER整形外科外傷診療はこうする【受け入れの判断編】

医療

当直をしていると、外傷の患者さんを受け入れることはよくあると思います。しかし調べてみても、具体的な対応フローに関しての情報はあまりありません。
そこで、いくつか教科書を読み、先輩に学び、文献をあたりながら自分なりに外傷診療を標準化したのでまとめてみます。

ER診療は、救急隊からのコールを受けて、受け入れを判断する段階から始まっています。
今回は、ER診療の最初の段階である受け入れ判断について、私なりの具体的な方針をまとめていきます。

概要としては、

まず情報収集し、緊急入院や緊急手術が必要かどうかを判断する
主訴・受傷機転・身体所見から骨折や緊急疾患の可能性を見積もり、入院が必要か、もしくは緊急手術が必要かどうかを判断する。

整形外科だけで対応できるのか判断する
頭部外傷や顔面外傷、意識消失による転倒外傷は他科の協力が必要になる。調整の上で受け入れ可能か判断する。

入院や手術が必要なさそうであれば受け入れる
入院や手術が必要でなければ、あとは気にすべきは自分のキャパのみ。自信があれば受け入れる。

入院や手術が必要そうであれば、病院側と調整して受け入れを判断する
入院や手術が必要であれば、自分だけでなく病棟やオペ室、セカンドの医師のキャパも考える必要がある。調整の上で受け入れを判断する。

という流れです。

具体的にみていきましょう。

緊急入院・手術が必要な症例か?

受け入れを判断する際に念頭に置くのは、骨折かどうか、入院が必要か、緊急手術の必要はあるかです。
2次救急であれば緊急手術が必要な症例は、かかりつけでない限りは受けないことが多い と思われますが、そのあたりは病院の方針によります。
主訴と受傷機転、救急隊による身体所見によって大体トリアージできますので、みていきましょう。

主訴:歩けない、腕を動かせない、などは骨折の可能性が高い

歩けない、動かせないという訴えは骨折であることが多いです。もちろんただ痛がりであるということもありますが、歩けない、動かせない人であってレントゲン上問題なさそうでも、レントゲンでは見えていない骨折があると考えて対応する方が無難です。

また、余談になりますが、上腕骨骨幹部骨折の人は、「腕が勝手に動く」と訴えることがしばしばあります。
これは骨折によって腕が不安定になり、ぐらぐらと動いてしまうことを言っているようで、初めて聞いた時は不随意運動かと思いましたがそういう訳ではなさそうです。

受傷機転:年齢と併せて考える

受傷機転に関しては、高エネルギーかどうかだけが重要かなと思います。高エネルギーであれば2次で受け入れることは多くないのではないでしょうか。
立位からの転倒なのか、高所からの転落なのか、交通事故なのかは一応聞いておきますが、意外と何しても骨折する時は骨折します。

高齢女性であれば立位からの転倒でも十分骨折の可能性があります。いわゆる脆弱性骨折です。
若年でも、1~1.5m程度の高さからの転落でも骨折することはあります。30代の若い男性でも、例えば机の上に立っているところから転落、でプラトー骨折をきたした人もいました。
他にも、ボルダリングで1.5m程度の高さからジャンプして、着地を誤って足首が折れた人なども。
自転車の交通事故も、単独事故、低エネルギーであっても骨折していることはあります。

身体所見:腫脹や変形は骨折のリスク。麻痺や感覚障害、創傷の有無は必ず聞く。

強い腫脹や変形があればまず骨折があると思って良いでしょう。
ただし、強い腫脹や変形がなくても骨折していることは十分あります。
骨折していなければ変形していることはほぼあり得ないので、変形は特異度は高いが感度は低い所見と言えますね。

また、神経血管損傷を有する骨折や開放骨折は緊急手術が必要です。麻痺や感覚障害、創傷の有無は受け入れの段階でしっかり聞きましょう。上記のいずれかがある場合は手術室やセカンドの医師との調整が必要です。ただ、Gustilo type 1の開放骨折であれば抗菌薬投与で外来治療できるので、ピンホール創程度の開放骨折疑いであれば受け入れを考慮しても良いかもしれません。

骨折の可能性がほぼなければ創傷のある外傷も受け入れて良いでしょう。歩行可能な下肢の創傷、自動他動ともに可能な上肢の創傷は受け入れOKと判断しています。
縫合が必要そうな外傷であれば、ゴールデンタイム内かどうかの判断が必要なので、受傷後の経過時間を聞いておきます。

また、生理的異常を伴う外傷は2次救急レベルでは対応困難なので、ショックバイタルなどは断りましょう。そういった症例は基本ロードアンドゴーとなり3次救急に搬送されるはずなので、2次救急で遭遇することはほぼないはずですが。

骨折の可能性を見積もり、入院/緊急手術の要否を判断

以上から骨折の可能性を見積もり、入院すべきか、緊急手術かを判断します。神経血管損傷を伴う骨折、もしくは開放骨折は緊急手術となるので受け入れのハードルは高いです。普通の2次救急であれば、かかりつけでない限り受け入れないことが多いと思われます。

神経血管損傷なし、開放創なしの骨折の場合は緊急手術なしと判断して、入院の必要性の判断に移ります。上肢の骨折は帰宅できるが、下肢の骨折は原則入院と考えても良いです。

ただ、小児の上腕骨顆上骨折は緊急手術の可能性があるので注意が必要です。
転位が大きければ神経を挟み込んでいる可能性が高く、非観血的な整復は危険であることが多いです。
また、小児は痛みに耐えてじっと我慢することができないので、徒手整復の難易度も高くなります。
上記の理由から、神経血管損傷がなくとも、準緊急的に手術を行うことが望ましいことがあります。

また、今回は2次救急の話なので、脊椎外傷は基本受け入れない方針とします。

他科疾患は隠れていないか?

また、整形外科だけで対応できる疾患か?も重要です。
頭部外傷などを伴っていれば脳外科との調整が必要ですし、
意識消失を伴う転倒外傷などでは、意識消失をきたす内科的疾患の検索・治療のために、内科と相談する必要があります。
他にも、眼瞼にかかる創傷なども形成外科など専門医の協力が必要になるので注意が必要です。

入院や手術が必要なさそうであれば受け入れ

情報収取の結果、入院や手術が必要でなければ、あとは自分の腕次第です。適切な処置ができる自信があれば受け入れます。
ただ、入院が必要でないと医師が判断した場合は帰宅していただくようにお願いすると、あとあと揉めることが少なくなります。(それでも揉めることはありますが…)

入院や手術が必要そうであれば、調整が必要

入院や緊急手術が必要そうと判断した場合は、調整が必要ですが、その前にそもそも受け入れるべきかどうか?を判断します。
かかりつけなのか?
かかりつけ患者以外の緊急手術はしない方針の病院もあります。
キーパーソンはいるか?
キーパーソンがいない患者は後の手続きで問題が起きることが多く、嫌がる病院もあります。

上記を確認した上で、病院のキャパ的に対応可能か?を確認します。
手術が必要であれば麻酔科、手術室の準備はあるか、病床に空きはあるか、といってことを各所に確認し必要であれば手配します。
そもそも手術・入院する同意はとれているか?を救急隊を通じて確認することも大事です。
同意が取れていなければ適切な治療ができない可能性が高いので、これも聞いておきます。
受け入れるべき患者で、病院側との調整が済めば受け入れます。
そうでない場合は、残念ながらお断りします。

以上、受け入れを判断する際の私なりの方針をまとめてみました。

あまり何も考えないで受け入れると、病棟やERナースからの心象が悪くなり働きにくくなることもあるはずです。(研修医時代にそういう医師をよくみていました。)

逆に、上記のような根拠を持って受け入れると、救急隊からの事前情報が実際と異なっていた際にも、「自分は得られる範囲の情報で最善の判断をした」と主張できるので、ナースや病棟と揉めることもないはずです。

こういった受け入れの判断など、自分の専門的な判断の根拠を説明できる能力、アカウンタビリティは専門職には重要な要素だと思っています。

ERは特にナースとのチームワークが重要になってくるので、アカウンタビリティを大切に働いていきたいものです。

おしまい。

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