【非認知能力】具体的に理解するのには心理学が必要

エビデンスに基づいた生活

この記事は、非認知能力に関するレビュー論文『非認知能力に関する研究の動向と課題』(東京大学大学院教育学研究科紀要巻 58, p. 31-39, 発行日 2019-03-29)の紹介をしていく全3回のシリーズの第2回です。

この論文の目玉は、非認知能力のなかでも「自己効力感」と「内発的動機づけ」を鍛えることが、少なくとも若いうちは有効と考えられると結論づけているところです。

他にもいろいろなことが書かれていてすごく読み応えのある論文なのですが、

「どんな非認知能力を鍛えればいいのかを知りたい!」という人は、「自己効力感と内発的動機づけ」というキーワードだけを持って帰っていただければ十分だと思います。

今回は主に非認知能力の学問的な位置付けに関してみていき、

「非認知能力は手放しでもてはやすほどのものではないけど、心理学の成果を使えば具体的な有用性がある程度わかりそうだ」

という結論を導きます。

なんとも歯切れの悪い結論ですが、世の中白黒はっきりしていることのほうが少ないのでしょうがないですね。

(少し本題から逸れますが)ある程度不確実なものを不確実なまま受けいれて利用するという能力も、現実世界を生きていく上で大切なのです。

「非認知能力」という用語は濫用されている

本論文は、非認知能力という用語が濫用されていることに関して警鐘を鳴らすものでもあります。

非認知能力は、とくに子育ての文脈でよく聞く用語になっていますが、結局それがなにを指すのかあいまいなまま濫用されている傾向があると筆者は指摘します。

実際に,非認知能力を育てよう,ある いは非認知能力の育ちを支えようという実践の立場か ら考えると,非認知能力とは何であり,具体的に何を どうすればよいのかについての議論やそのための知見 の積み上げは十分ではなく,ホットなワードだからと 単純にもてはやすことの性急さは否めない。

もともとの定義が漠然としていることもあいまって、流行りの言葉だからとむやみやたらに強調して使われていることも多いようです。

非認知能力は銀の弾丸ではない

非認知能力は用語が濫用されることにともなって、まるで万能の能力であるかのような使われ方もしているようです。

非認知能力を鍛えれば万事解決、というような言説も見かけますが、それは間違いです。

あくまでも「認知能力以外にも人生をより良くする能力がありそうだ」という仮説が言われているだけです。

非認知能力が長期的に人生に大きなプラスの影響をもたらすという仮説は、以下のような問題点が指摘されています。

この結果にはいくつかの注意すべき指摘もあ る(遠藤,2017)5) 。まず,非認知能力の重要性についての示唆が,(中略)おそらく”非認知能力による差だと考えられ る,という消極的な理由によるものであり,具体的な 非認知能力の測定は行われていなかった

「非認知能力」そのものは具体的な定義がなく、測定できるものでもなかったのです。

これは非認知能力が当初「認知能力ではないもの」として定義されていたことに起因する理論的な問題点です。

さらに以下で述べるように、非認知能力が有用であるということが誰にでも当てはまるとは限らないということも言われています。

また,この介入が小規模サンプルに対し行われた もので,大規模サンプルに拡張しても同じ効果が見込 めるとは限らないという点が二つ目にある。

さらに, この結果は貧困家庭の子どもというハイリスクサンプ ルの,低水準から平均近い水準への(それでも平均以 下である)追いつき効果を示すものであり,中流家庭 の子どもの,あるいは平均水準から高水準への上乗せ 効果が期待できるのかは疑わしいという点が三つ目に ある。

乱暴な言い方ではありますが、非認知能力を鍛えれば「落ちこぼれ」から「中の下」に成長できる可能性は示されたけど、「平均」から「優等生」になれるかはわかりません。

要は、非認知能力の概念としての有用性に関しては、外的妥当性においても全面的に信頼できるものではないということです。

とはいうものの非認知能力はある程度有用ではありそう

ここまでで非認知能力の限界について述べてきました。

しかし誤解を招かないように強調しておきたいのが、

これは非認知能力に意味がないということを言いたいのではなく、非認知能力には効果がありそうだけど強く断言できるものではないってことだよ、

ということです。

「非認知能力の効果が全面的に信頼できるものではない」ということは、あくまで「効果があることが直接証明されていない」ということであって、「効果がないことが証明されている」わけではありません。

「証拠が無い」ことは「無いことの証明にはならない」のです。

いくつかの他の研究結果を合わせて合理的に考えると、「非認知能力が人類全体においてある程度有効である」という仮説はそこまで間違っていないはずです。

したがってここでの結論としては、「非認知能力は確かに有用そうだけど、なんでも解決できる銀の弾丸みたいにもてはやすほどのものでもないよね」ということになります。

非認知能力の具体的な有用性を探るのには心理学が使える

ここまでで、非認知能力は確かに有用そうだけど万能とは言えないよ、という話をしてきました。

その理由の一つとして、非認知能力の定義が漠然としているため、その効果を具体的に示すことが難しそう、という問題があります。

ここでは、その問題が、非認知能力が心理学の諸概念と結びつくことである程度解消される、ということを話していきます。

非認知能力が漠然としているのは、あくまでも当初の定義だけです。

研究が進むにつれて非認知能力は、「研究で存在が示唆された漠然としたもの」から、徐々に「心理学の諸概念と結びついた具体的なもの」になっていきました。

くりかえしになりますが、非認知能力はそもそもは「認知能力ではないもの(能力)」として定義された漠然とした概念なので、本来捉えどころがないものです。

それが心理学の概念と結びつくことで具体的に実証できるものとしての位置付けを得ることができました。

こうした理念的な(領域横断的な広い)意味と,実 証研究上の(心理学的な狭い)意味という複層性を持 つ非認知能力の,育ちを支える,ということも,必然 的に多元的な検討を必要とする。

こういった難しさがありますが、有用な非認知能力やその鍛え方に関しては、心理学の成果がある程度応用できるということになります。

そこで、いよいよ次回、鍛えることのできる有用な非認知能力に関してまとめていきます。

おしまい。

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