【論文紹介】この非認知能力を高めれば給料があがる【実証研究】

エビデンスに基づいた生活

今回は、前回取り上げた論文で、具体的にどんな非認知能力が賃金を上昇させるされているのかについてまとめます。

結論としては、「攻撃性と内省性を抑えて、外向性と協調性、勤勉性を高めると賃金が上がる可能性がある」というものでした。

攻撃性と内省性を抑えて、外向性と協調性、勤勉性を高めると賃金が上がるかも

非認知能力の賃金への影響は、おそらく環境によって異なります。

社会規範的な話になってくると思いますが、海外で望ましいとされているふるまいと、日本でのそれが同じとは限りません

そのため、日本の研究、海外の研究を分けて考えることにします。

日本の研究:外向性、協調性、勤勉性が高いと賃金が上がり、正社員になりやすく、スポーツ活動の経験も賃金に影響する可能性がある

外向性 (extraversion),協調性(Agreeableness)や勤勉性が高いと賃金が上がり、正社員になりやすい

日本の研究では,戸田・鶴・久米(2013)が, 運動系クラブへの所属と生徒会での経験が賃金へ 正の影響があることを確認した。
これは,外向性 (extraversion),協調性(Agreeableness)やリーダー シップの重要性を示しているといえる。
また,認 知能力が高く,非認知能力の中でも勤勉性や外向 性が高いほど初職が正社員になりやすいという。

また,大竹・佐々木(2009)は,ある自 動車メーカーにおいて,スポーツ活動が高卒従業 員の昇進プレミアムに影響を与えることを確認し た。この結果から,高卒従業員に対しては,スポー ツで培った非認知能力(例えば,根性 , 忍耐力 , 協 調性,統率力)を職務遂行に活かせるような仕事 を割り当てていると解釈している。

この論文で引用されている範囲では、日本の研究は海外の研究と比較して大雑把な分析しかされていなさそうです。

また別の機会に、日本の研究に関して調べてみます。

海外の研究:11 歳時点での分析対象者の攻撃性や内省性が一標準偏差増加すると、賃金がそれぞれ 8%と 3%下がる

Bowles, Gintis, and Osborne(2001)は、2 つのデータを用いて非認知能力が現在の賃金に与える影響を分析しました。

National Child Development Study(NCDS)を利用し,11 歳時 点での分析対象者の攻撃性(Aggression)や内省 性(Withdrawn)を調査官が評価した情報を非認 知能力の指標として用いた結果,攻撃性や内省性が一標準偏差増加すると,賃金がそれぞれ 8%と 3%下がることが分かった。

この非認知能力の影響力は職業的地位と 男女によって異なる。職業的地位が高いグループ において,女性にとってはより攻撃的であること が,男性にとってはより内省的であることが賃金 を低下させる。

これらの結果から、賃金への非認知能力の影響が、雇用主側の特定の非認知能力に対する評価によるものなのか、または、非認知能力が単純に観察不可能な他の能力を代理しているだけなのかは明確ではありませんが、非認知能力が生産性を向上させることにより賃金を決定する可能性があると強調しています。

外向性は賃金を上昇させる

外向的であることは、賃金が高いことと関連があるという研究結果もあります。

外向性の重要性は,Fletcher(2013)の研究でも 知られている。Fletcher は,兄弟と双子のデー タを用いることにより観察できない遺伝的な要素 や家庭環境からの影響を一部取り除いて分析した 結果,外向性が賃金に正の影響を与えることを見 つけた。

どんな非認知能力が適しているかは職種によって異なる

ここまでは非認知能力と賃金の関係だけをみてきましたが、職種によって適している非認知能力の特性はことなるようです。

具体的には、協調性が低く外向性と自尊心が高い人は管理職向き、外向性が高い人は営業・サービス業向き、外向性が低い人は専門職向き、といった形です。

男性の場合、協調性が低く自尊心が高いほど管理職になりやすいという結果があります。

Cobb-Clark and Tan(2009)は,男性 の場合,協調性の指標が一標準偏差高まると管 理職になる可能性を 2.9% 減少させ,自尊心(Selfesteem)の一標準偏差は 2.8% 増加させることを 18 の職階を用いた分析で明らかにした。

一方で、管理職・営業・サービス分野の職種は外向性が高いほど賃金が増加するが、専門職の賃金は外向性が高いほど減少するという結果もあります。

Cattan (2011)は,外向性指標が一標準偏差増加すると,管理職の賃金が 7%,営業・サービス分野の賃金 を 4%増加し,その一方,専門職の賃金は 2%減 少することを確認した。それ以外の職については 影響がないとのことである。

とはいえ、これらはあくまで観察研究

ここからは私の考察になりますが、これらの研究は観察研究であることに注意したいです。

あくまで、「〜という非認知能力をもった人は賃金が高い傾向にある」ということを言っているだけで、「〜という非認知能力を高めたら賃金が高くなった」ということを言っているわけではありません。

賃金が高い環境にいることで非認知能力が高くなる、という逆の因果だってありうる

一部の研究は前向きコホート研究を行なっているため、上のような因果の逆転はないだろうが、介入研究ほどの質はないことは押さえておきたいです。

ただ、それを差し引いても非認知能力と賃金の関係というのは無視できないものでしょう。

一般的な直感からしても、外向的で協調性が高くて勤勉な人ほど賃金は高くなりそう、というのもある。

総合的に考えて、外向性、協調性、勤勉性と賃金は因果の関係にあるという仮説をもってもいいと思います。

また、非認知能力の特性によって、適している職業が異なる、という仮説も受け入れやすいのではないでしょうか。

ただ、これらの非認知能力は鍛えられるものなのか、もし鍛えられるとしてどのように鍛えればいいのか、という疑問は残ります。

それに関してはまた別の機会にまとめようと思います。

おしまい。

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