【論文紹介】非認知能力はアンケートで測定することができます

エビデンスに基づいた生活
今回から3回にわたって、非認知能力に関するレビュー論文『非認知能力に関する研究の動向と課題』(東京大学大学院教育学研究科紀要巻 58, p. 31-39, 発行日 2019-03-29)の紹介をしていきます。
この論文の目玉は、非認知能力のなかでも「自己効力感」と「内発的動機づけ」を鍛えることが、少なくとも若いうちは有効と考えられると結論づけているところです。
他にもいろいろなことが書かれていてすごく読み応えのある論文なのですが、
「どんな非認知能力を鍛えればいいのかを知りたい!」という人は、「自己効力感と内発的動機づけ」というキーワードだけを持って帰っていただければ十分だと思います。
ちなみにその結論に関しては、このシリーズの最後の回、第3回で紹介する予定です。
今回は、非認知能力の定義に関してまとめていきます。

非認知能力とは賃金や社会的行動、健康に寄与するものであり、「認知能力ではないもの」

非認知能力は、もともとは賃金や社会的行動(犯罪率など)、健康(身体的・精神的)に寄与する、「認知能力ではないもの」として定義されました。

研究の結果、「学力以外のなにかが、よい賃金や社会行動、健康につながっているらしい」ということから生まれた概念です。

非認知能力が世間の注目を集めることになったきっ かけは,前述のヘックマンが紹介したペリー就学前計 画という介入研究であった。貧困層のアフリカ系米国 人の子どもを対象に1960年代に行われたこの介入プ ログラムは,40年後の追跡調査で,プログラムを受け ていない統制群に比べ高い年収や持ち家率,および低 い犯罪率と生活保護受給率を示すという有意な効果を 示した。一方で両群の学力は小学校中学年以降,有意 な差が見られなかったため,こうしたアウトカムの差 を生んだのは,学力以外の何か―非認知能力―だと示 唆されたのである。

非認知能力は労働市場 のみならず,社会的行動(犯罪率の低さなど)や健康 (身体的・精神的)にも寄与すると指摘された(Farkas, 2003; Heckman, Stixrud, & Urzua, 2006)。

かなり漠然とした定義で、混乱が起きるのもしょうがないような気がします。

その大雑把さから、態度・動機づけ・パーソナリティ(要は性格)など、能力とは呼べなさそうなものまでもふくまれているのです。

非認知能力ははじめ,社会学の分野で,労働市場に おける成功を予測する因子として登場した。Bowles &Gintis(1976)は,(中略)態度・動機づけ・パーソナリティといった非認 知能力(に含まれるもの)を,社会的成功を予測する 因子として紹介した。

非認知能力は社会情緒的スキルとも呼ばれる

さらにややこしいことに、非認知能力は「社会情緒的スキル」とも呼ばれています。

そこでは、

・人間の考え方や感じ方、振る舞い方のパターンで、
・成長に伴って発達し
・その人の人生に影響を与える能力

として定義されています。

OECDレポートでは、非認知能力は社会情緒的スキルと呼ばれ、⒜ 思考,感情,行動における一貫したパターンで,⒝学 習経験を通して発達し,⒞個人の人生を通して社会経 済的に影響を与える能力 と定義される

とはいえ,こうした従来の認知能力に重きを置い た期待とは方向性を変えた,“認知能力ではないもの” への期待は,その後,OECDレポート(2015)にお いてより具体的な調査結果として示されることにな る。このレポートでは,社会情緒的スキル(Social and Emotional Skills)という概念を措定し,それを⒜ 思考,感情,行動における一貫したパターンで,⒝学 習経験を通して発達し,⒞個人の人生を通して社会経 済的に影響を与える能力と定義した。ちなみにここで の社会情緒的スキル,および認知スキルを含む“スキ ル”とは,①個人のウェルビーイングや社会経済的発展の少なくとも一側面に寄与し(productivity),② 測定可能であり(measurability),③環境の変化や介入 によって成長可能なもの(malleability)と定義される。

レポートでは9つの国での調査結果から,社会情緒的 スキルが身体および精神的健康,ウェルビーイングの 高さ,問題行動の少なさを予測すると示された(一方 で,認知スキルは学歴や雇用,収入などを予測すると された)。

すこし具体的な定義になってきましたが、まだ抽象的であることに違いはありません。

ここから、非認知能力をさらに具体的にみていきます。

近年においては非認知機能は測定可能なものに落とし込まれている

これ以降、社会情緒的スキルと書かれているものもありますが、適宜非認知能力と読み替えてください。

非認知能力は当初は漠然としたものでしたが、これまで心理学的に発見されてきたいろんな概念と結びつくことでさらに具体的な扱いができるようになります。

こうした社会情緒的スキルのように,非認知能力に 含まれながらも,条件定義を加えより狭い概念に落と しこんだものを措定し実証研究を行う,というのが, 実証研究フェーズでの非認知能力の妥当な扱われ方で あるように思われる。

また一方で,これまで個別に理 論建て,および測定されてきた既存の心理学的諸概念 を非認知能力に含まれるものとしてメタ分析すること も行われている(Gutman & Schoon, 2013)。

そして、非認知能力を測定する手法の開発が進むことで、「測ることのできるもの」としてより具体的なものとなってきました。

これまで社 会情緒的スキルは“社会的望ましさ”のバイアスやノ イズが含まれやすいとして政策議論においては過小評 価されがちであったが,測定手法の洗練や,複数の測 定手法を組み合わせることでその課題も乗り越えるこ とが可能であり,今後の政策立案で重要になる,とレ ポートでは提起されている。

この測定可能性、つまり「はかることができること」というのはかなり重要です。

人間は直接感じることができないことでも、「測る」ことができれば実体があるとみなして取り扱うことができます。

認知機能が最たる例で、IQテストなどを駆使して「測る」ことができるから知能(認知能力)というものがあると思うことができるわけで、実は知能(認知能力)もかなり曖昧でおおざっぱな概念です。

「国語の成績がいい人は、なんとなく数学も社会も理科も英語も成績がいい傾向にある」「成績が悪い人はどの教科の成績も悪い傾向にある」といった経験則から、「もしかしたら一般知能というものがあって、それが間接的に国語や数学といった教科の成績に影響しているのではないか」という仮説をもとに作られた概念が一般知能gなのですが、こんな漠然とした概念でも、IQテストで測れるというだけで一般人に広く受け入れられています。

どういったもので測定できるかというと、ネットでFive big personalityなどで出てくる質問紙法(アンケートのようなもの)で測ることになるのですが、これもいつか具体的にまとめてみようとおもいます。

そして、測ることができる個別の要素として、自制心,グリット,内発的動機づけ,自律性,心的理 解,共感性,道徳性,向社会的行動などが具体的に挙げられます。

人は本源的に自 己実現・自己高揚・自己保全などの欲求に強く駆ら れそうした欲求の充足を効果的に可能ならしめる心 の性質(自制心,グリット,内発的動機づけ,自律 性)を社会情緒的コンピテンスの重要な柱の一つとし て持つ一方,本源的に社会的生物でもあり,他者との 関係性の構築・維持に深く関わる心の性質(心的理 解,共感性,道徳性,向社会的行動)も社会情緒的コ ンピテンスの重要な柱の一つとして持つという(遠 藤,2017)13) 。

ここまでで、混乱されがちな非認知能力という概念について、定義の面からまとめてみました。

次回は非認知能力という概念の学問的位置付けについてまとめてみます。

おしまい。

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