財務会計論の勉強の合間に、こんな面白い話を見つけたので紹介してみます。
コマツは、大量に抱えている売上債権の回収リスクをIoTによって回避している
みたいな話です。
IoT導入のメリットを、こうして会計の観点から眺めてみると面白いなと思ったのでまとめてみます。
大量の売上債権を抱えるコマツ
コマツの財務諸表をみると、大量の売上債権が目に付きます。
実際に見てみましょう。以下に、コマツの貸借対照表の簡易模式図を示します。(2021年3月期)
パッと見て、売上債権の占める割合がかなり大きいことに気が付きます。
売上債権はどうしても回収リスクを孕んでしまうので、基本的にはあまり抱えたくありません。
そんな厄介なものを、どうしてコマツは大量に抱えているのでしょうか。
売上債権がかさむ理由は販売金融にあり
実は、コマツの売上債権が膨らんでいるのは、新興国の顧客を得るために販売金融を行っているからなんです。(販売金融とは、”ローンでの販売”などのこと。)
コマツの主要顧客は、建設ラッシュに湧く新興国の企業です。
経済が著しく成長し、人口も大きく伸びている新興国は、それだけ建設需要もあります。
建設需要のあるところに建設機械を売る。これは当然の戦略です。
しかし、新興国の企業は資金が不足していることが多く、キャッシュ・現金一括で建設機械を買うことができません。
そこで、資金力がない顧客にも製品を売れるよう、コマツは販売金融を行っているのです。
販売金融に伴う大きなリスク
しかし、新興国企業への販売金融には大きなリスクが伴います。
新興国の企業は大抵の場合、資金だけでなく信用にも乏しいのです。
信用が乏しい、つまり、経営がうまく行くか怪しい、返済を渋る可能性が高い、といったことが頻繁にあるわけです。
どちらにしても、資金を回収できない、債権が焦げ付くリスクに繋がります。
回収できなかった分は、まるまるコマツの損失になるので、大きな問題です。
実は、コマツはこのリスクを回避する秘策を持っているのです。
リスク回避の切り札「KOMTRAX」
新興国企業への販売金融に伴うリスクを回避するために、コマツはIoTシステム「KOMTRAX」を活用しています。
KOMTRAXによって可能になるのは、販売した建設機械の状態を遠隔地からモニタリングし、稼働管理をすることなどです。
モニタリングによって、例えば、稼働状況の把握、故障の検知、部品の交換時期把握などができます。
また稼働管理によって、建設機械を強制的に停止することもできます。
KOMTRAXによる売上債権の品質保証
コマツはこれらの機能を駆使することで、建設業務進行を補助することで顧客の経営を助けたり、重機を停止することで債権を取り立てる、といったことを可能にしています。
顧客業務の補助
例えば、重機に故障や不調があった場合、モニタリングによってこれを把握し、建設業務がストップする前に駆けつけてサポートすることが出来ます。
建設業務のストップは大きな機会損失を生むため、建設業者の資金繰りにも悪影響を及ぼします。
資金繰りが悪くなると当然、ローンの返済も滞ります。
逆に言えば、建設業務のストップを未然に防ぐことができれば、コマツは売上債権が焦げ付くリスクを減らすことができるのです。
重機の停止による取り立て
もし支払いを渋る業者がいても、遠隔操作によって重機を停止してしまうことができます。
重機が停止されてしまえば、建設業者は仕事ができません。
仕事をしたければコマツへの返済を再開するしかないわけです。
こうして債務の踏み倒しを防ぐことができます。
品質の高い売上債権によるキャッシュフロー改善
以上のように、コマツはKOMTRAXによって売上債権の質を高く保つことができていますが、そのおかげで売上債権の売却という手段もとることができます。
資金の回収期間を短くしたい場合、コマツは売上債権を証券化し、売却することが出来るのです。
証券化された売上債権は、KOMTRAXによって信用が高められているため、それなりに良い値段で現金化することができます。
こうして、コマツは自社のキャッシュフローを調整することができるわけです。
余談:KOMTRAXによる差別化戦略
また余談になりますが、KOMTAXの導入は、リスク回避だけでなく、差別化戦略にも役立っています。
先述のように、コマツはKOMTRAXのモニタリングによって手厚いアフターサービスを提供することができます。
建設機械のトラブルは建設業者としても避けたいもの。
KOMTRAXによってそれが可能になるというのは大きな訴求点になるのです。
これはただ建設機械を売るだけの同業他社には無い強みです。
この強みのおかげで、コマツは価格競争に巻き込まれること無く、差別化戦略をとり、高い利益率を誇っているのです。
おわりに
IoTという技術的な分野を、売上債権やキャッシュフローといった会計的な切り口でみる、というのはなかなか面白いテーマだったと思います。
この話は、『儲かる会社の財務諸表』という本に詳しく書いてありました。
50近い企業の財務諸表を、比較しやすいように比例縮尺で可視化してあります。
扱っている企業も、アップルとグーグル、アマゾンと楽天…といった身近な企業が多くて読みやすいです。
興味のある方は是非。
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