【問診・総論編】ER整形外科外傷診療はこうする【2次救急】

医療

当直をしていると、外傷の患者さんを受け入れることはよくあると思います。しかし調べてみても、具体的な対応フローに関しての情報はあまりありません。
そこで、いくつか教科書を読み、先輩に学び、文献をあたりながら自分なりに外傷診療を標準化したのでまとめてみます。

前回は、2次救急病院での整形外科外傷診療に関して、受け入れの判断までまとめました。

今回は、接触後の診察に関して総論的な部分をまとめていきます。

概要としては、

General appearance、First impressionの評価
ぱっと見での重症感と、ABCDの評価をします

SAMPLEに沿った問診
一般的なERのフレームワークであるSAMPLEに則って問診をします。

神経血管損傷の評価
まず何よりも神経血管損傷、特に緊急となる血管損傷について評価します。

罹患部位の詳細な評価
その後は罹患部位ごとに注意すべき点を押さえて診療していきます。

という流れです。

具体的にみていきましょう。

General appearance、First impressionの評価

ER診療の基本ですが、まず状態をパッとみて、活きが悪そうだ、重症感がある、といった評価はしておきます。

General appearanceというのは、例えば「ストレッチャー上臥位で入室、表情は苦悶様、移乗の際に疼痛を訴え叫んでいる」などで、

First impressionは、重症感あり/なし、といったものです。整形外科医であれば、ここで「骨折してそう」「コンパートメント症候群はなさそう」くらいの印象も持っても良いかもしれません。

私は、この初回の接触の時点で、ストレッチャーからベッドに移乗させた直後にABCDの評価をするようにしています。救急隊からの申し送りを聞くのはその後です。

具体的には、
「お名前と生年月日を教えてください」で本人確認と同時にAirway /気道開通を確認し、
橈骨動脈を触れ脈拍を評価しつつ呼吸数を数えてBreathとCirculationを確認し、
「今日は何月何日ですか」「バンザイできますか、膝立てられますか」でDysfunction of Central Nervous systemを評価します。

とはいうものの、生理的に異常のある外傷は、基本的には2次救急には来ないはずです。しかし、受け入れの時点ではバイタルに問題がないという話だったのに、病院に到着した時点ではバイタル異常がある、ということは複数回経験があります。

本当に搬送途中で状態が変化したのか、それとも救急隊の評価が誤っていたのか…。真相は不明ですが、バイタルが事前情報と異なることはままあります。

幸い私が経験した範囲のバイタル異常は、輸液でなんとかなる程度の止血可能な出血性ショックだったり、原因不明の徐脈であったりとなんとか対応可能なものばかりでしたが、その場合も初動の速さが大事です。

そのためにも、ABCDの評価は接触時に自分でしておくべきです。

SAMPLEに沿った問診

問診は、一般的なERのフレームワークであるSAMPLEに従って行います。以下に、各項目ごとの問診のポイントをまとめます。

Symptom(主訴、受傷部位): 主訴や受傷部位の情報は重要です。歩けるか/動かせるかといった症状は、画像所見よりも優先するべき場合もあります。

Allergy(アレルギー情報): 患者がアレルギー反応を起こす可能性のある麻酔薬や抗菌薬について確認しましょう。局所麻酔薬は創傷処置や徒手整復の際に、抗菌薬は汚染創やGustilo type 1の開放骨折に使うことがあるので、アレルギーの有無は把握しておく必要があります。

Medication(薬剤情報): 内服薬は、疾患の事前確率や治療方針に影響する場合があるのでしっかり把握します。特に、抗血栓薬(出血のリスク)、ステロイド(創傷感染のリスク、脆弱性骨折や大腿骨頭壊死のリスク)、抗がん剤、免疫抑制薬(創傷感染のリスク)、βブロッカー(頻脈をマスク)が重要です。

PHx(既往歴): 既往歴も、疾患の事前確率や治療方針に影響します。糖尿病や免疫不全、脾臓摘出があれば創傷感染のリスクですし、透析患者は感染のリスクであるとともに脆弱性骨折のハイリスクです。私は、透析患者の転倒をみたら脆弱性骨盤骨折を必ず鑑別に挙げます。また、整形外科手術歴も、例えば創傷に対する予防的抗菌薬を検討する要素となるので重要です。(基本的には整形外科術後患者の外傷は、手術を行なった病院に搬送されることが多いです。)

Last meel(最後の食事): 最後の食事がいつかは手術となる場合に必要な情報ですが、栄養状態を評価する目的でも有用です。最近食事を取れていない、という人はあまり状態が良くないと判断します。

Events & Environment(事象と環境):いつ、どこで、どのような事象が起きたかを明確に把握します。特に、イベントが受診の8時間以内に起きたかどうかは、創傷のゴールデンタイムを判断する上で重要です。受傷時の環境や物質(ガラス、コンクリートの地面、ナイフ、錆びた釘など)も丁寧に聴取し、創傷の原因を特定しましょう。また、意識を失って転倒した場合は、てんかんやAdam stokes 発作を鑑別に挙げて、必要があれば脳外科や循環器内科に協力を仰ぎます。

神経血管損傷の評価

神経血管損傷の有無はかならず確認するよう習慣づけたほうが良いです。
特に血管損傷は6時間以内の血行再建が必要となる緊急疾患なので早期発見を心がけます。(2次救急ではほとんど遭遇することはないと思われますが。)
順番としては、緊急度的に血管損傷、神経損傷の順番で評価していきます。
また、ここで血行障害の原因の一つであるコンパートメント症候群に関しても評価しておきます。

血行障害の評価

血管損傷の所見にはハードサイン、ソフトサインと呼ばれる代表的なものがあるので、これらをしっかりと評価します。

ハードサイン:血管損傷の可能性が比較的高い所見
ハードサインがある場合、明らかな血行障害が疑われます。以下の兆候が一つでも見られた場合、血管損傷を疑い、対応を始めます。

  • 1.活動性出血
  • 2.急速に増大する血腫
  • 3.血管雑音の聴取や触知
  • 4.四肢末梢脈拍の消失
  • 5.四肢末梢血行障害の5徴(Pain疼痛、Pallor蒼白、Paralysis麻痺、Paresthesia感覚異常、Poikilothermia冷感)

ただし、ハードサインがあっても必ずしも血管損傷があるとは限りません。ハードサインを有するものの87%は軟部組織や骨からの出血、血管のスパスム、コンパートメント症候群などが原因とのデータもあるようです。
画像検査で血管損傷が否定されれば、次の段階へ進みます。

ソフトサイン:血管損傷の、いうなれば状況証拠的な所見
ソフトサインがある場合、血管損傷の可能性を考慮して対応します。

  • 1.受傷現場や搬送中の多量出血
  • 2.主要血管近傍の損傷
  • 3.血管に隣接する神経損傷所見の存在
  • 4.動脈上の血腫
  • 5.末梢拍動の減弱

身体所見のみでの、修復が必要な血管損傷の診断特異度は94~100%といわれています。要は上記の所見を認めた場合はかなり血管損傷のリスクが高いと考えておきます。
ただ感度はあまり高くないようで、例えば、膝関節脱臼に血管損傷が伴っている患者の13%が身体所見のみからの診断が不能であったという報告もあるので注意が必要です。

Passive stretch test:コンパートメント症候群の診察
伸筋を他動的に伸展させる際に疼痛が増強されるかどうかを評価する診察手技です。疼痛が増強された場合、コンパートメント症候群の可能性が考えられます。
前腕や下腿はコンパートメント症候群をきたしやすく、その部位に著名な腫脹や安静時痛を認めた場合にはかなり疑わしいです。
下腿なら母趾を、前腕なら手指を他動的に伸展します。

上記の診察で血管損傷やコンパートメント症候群などの血行障害を疑った場合は、エコー検査や造影CTなどの画像検査を追加します。疑いが強ければ、セカンドの医師に連絡しつつ緊急処置の準備を進めます。

ただ、例えばPink, Pulseless Handと呼ばれる橈骨動脈は触知しないが色調は保たれている状態もあります。これは上腕動脈による血行は破綻しているが、即副血行路が機能しているために末梢循環不全には陥っていない状態で保存的治療も可能な状態です。

上記はあくまでも原則であって、各論的には当てはまらない場合もあることを念頭に置きます。

神経障害の評価

神経障害の評価では、運動と感覚それぞれを評価します。ただ、神経障害がなくとも疼痛や腫脹・浮腫があると力が入りにくい、感覚が鈍い、といったことは十分あり得ますので、それを考慮した上で診察します。

感覚の評価をする際には、末梢神経レベルでのデルマトームを把握しておくと便利です。例えば、母趾と第2指の背側趾間の感覚障害がある場合、深腓骨神経障害を考えます。

また、血行障害と比べると、神経障害の緊急度は一段下がります。例えば、上腕骨骨折の場合の神経麻痺は、多くの場合は保存的に見ることができます。
観血的処置が必要と判断された場合も、翌日以降まで待てることが多いです。

ただ、神経障害をきたしている骨折で徒手整復が必要な場合、骨片の間に神経を噛み込んでいる可能性があるので、その場合は慎重に整復する、もしくは観血的整復を考える、といった対応が求められます。
エコーで神経の連続性や位置を確認するのも良いでしょう。

罹患部位の詳細な評価

どんな部位の外傷であっても上記は確認し、その後に各論的な評価をしていくことになります。

各論についてはまた別でまとめることにします。

おしまい。

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