当直をしていると、外傷の患者さんを受け入れることはよくあると思います。しかし調べてみても、具体的な対応フローに関しての情報はあまりありません。
そこで、いくつか教科書を読み、先輩に学び、文献をあたりながら自分なりに外傷診療を標準化したのでまとめてみます。
創傷の処置に関しては、医学科の講義でもほとんど教わることがありません。それなのに、当直をしていると当然のように求められるスキルでもあります。
講義で体系的に学ぶ機会がないという事情があることから、先輩やオーベンから教わった情報というのは時代遅れである可能性があります。
たとえば、そこまで汚染の強くない創傷に対して、消毒+ガーゼの処置を行っている場合、その手法はほぼ間違いなく時代遅れです。
私は運良く、大学の講義で形成外科の教授から正しい創傷管理を教わっていたため、消毒+ガーゼ以外の創傷管理手法があることは知っていました。
この記事では、最新のガイドライン、文献に則った、創傷管理のベストプラクティスについてまとめました。
概要としては、
出血状態の評価とコントロール
汚染の評価と皮膚洗浄
失活の評価
麻酔
創洗浄
創の局所評価
縫合とドレッシング
という流れです。
本文では、たびたび以下の書籍を参考文献として提示します。海外で創傷処置のバイブルとして親しまれている書籍の翻訳版とのことで、エビデンスに基づいた指針が示されている上に挿絵が多く大変わかりやすくおすすめの書籍です。
1. 出血の管理
十分な圧迫止血を行っても出血が止まらない場合でも、アルギン酸塩ドレッシング材を使用すると出血を止めることができます。アルギン酸塩は血液に触れるとゲル化しCaイオンを放出することで止血能力を発揮する、という機序の優れた止血材であり、出血部位に適切に適用することで出血をコントロールできます。
カルトスタットなどのアルギン酸塩ドレッシング材は、出血部位に当て、乾燥しないようにオプトサイトやパーミエイドなどのポリウレタンフィルム材で密封して用います。ここでフィルム材による密封を怠ると、カピカピに乾燥したアルギン酸塩が創傷に固着してしまい、剥離する際に組織に大きなダメージを与えることになるので注意が必要です。
適切に用いれば、そのまま湿潤閉鎖療法にも用いることのできるドレッシング材です。
止血が得られていれば、ついで汚染の評価と洗浄に移ります。
2. 汚染の評価と洗浄
汚染の評価
傷口の汚染度合いを評価します。
アスファルトに擦って受傷した擦過創などは、異物が真皮内に残った場合外傷性刺青となってしまい整容的に問題となるため注意が必要です。
皮膚洗浄
この時点では創の洗浄は行わず、皮膚の洗浄のみにとどめます。擦過創などでは、ここでしっかり洗浄しないと真皮内異物の評価などができません。汚染がひどい場合は皮膚をごしごし洗浄し、異物や汚れを残さないように注意します。
参考文献では、10:1に薄めた10%ポビドンヨード液とスポンジを用いて、創部を横切らないように、創部を中心にして円を描くようにして洗浄することが推奨されています。
実臨床では水道水のみで洗浄することも多いので、この辺りは柔軟に対応して良い印象があります。
3. 失活の評価
Flapの形成などを認める創傷では、失活を評価する必要があります。失活してしまった ≒ 循環が途絶えている組織は、たとえ縫合しても壊死してしまい、創部感染の原因となりうるからです。
失活した組織を評価するために、Pin Prickテストや2点識別法を行います。失活した組織がある場合、デブリードマンを考慮します。
具体的には、Pin Prickテストでは20G針などで創縁を差し、出血があるか確認します。
2点識別法では、例えばゼムクリップなどを用いて数ミリ感覚で2点を刺激し、2点を識別できるかどうかを確認します。正常であれば3mm以上の間隔があれば識別可能で、識別するのに5mm以上必要であれば黄色信号、8mm以上必要であれば赤信号、といった具合です。
受傷後6〜8時間(Golden period)以内で、汚染が軽度かつ失活をほぼ認めない創であれば、一次閉鎖可能です。
その条件を満たさない場合でも、参考文献には「受傷後24時間以内の創傷で、見た目が壊死・失活しておらず、出血はわずかで、積極的な洗浄やデブリードマンを行ったのちに明らかな汚染や異物残存がないようなものは一次縫合を考慮しても良い」という指針が示されています。
ただ、上記に当てはまらず、明らかにGolden periodを逸している場合、三次閉鎖(遷延性一次閉鎖)を行います。
4. 麻酔
処置を行う際には、患者の快適さを確保するために麻酔が必要です。局所麻酔、伝達麻酔など、適切な種類の麻酔薬を選択し、適切な薬液量を使用します。
創洗浄は疼痛を伴うため、その前に麻酔を行うのが良いでしょう。いくつか伝達麻酔の方法を覚えておくと有効です。
また、局所麻酔薬には極量があり、例えば1%キシロカインは極量である20ml以上は使わないようにします。(一般的に使う局所麻酔薬の極量はそれぞれ、1%カルボカインで35ml、0.25%マーカインで40ml、0.75%アナペインで40ml)
5. 創洗浄
創洗浄は、傷の感染を予防するために非常に重要です。以下のポイントに注意して行います。
- 消毒は行わない(咬傷を除く)
- 傷口を乾燥させない
- よく洗浄して異物を残さない
創内部を消毒してしまうと、組織障害によって創の治癒が遅れてしまいます。医原性に難治化してしまうことになるので、無闇な消毒は避ける必要があります。
開放骨折はとにかく大量の水道水で洗浄
開放骨折の場合、教科書的には大量の水道水を使用して創洗浄を行います。ただ、「大量の水道水」と言われても具体的な数値がないと動きようがないので、先輩方の意見や複数の書籍を参考にして、とりあえずの洗浄量を以下のように設定してみました。絶対的なものではないのであしからず。
Gustilo分類に応じて洗浄量を設定しています。
- Type 1(1cm以下で汚染なし):3L
- Type 2(1cmを超えるが広範囲の軟部組織損傷や剥皮創を伴わない):6L
- Type 3(広範囲の軟部組織損傷があるが骨折部が十分被覆できる、もしくは創の大きさにかかわらず高エネルギー外傷に伴うもの):9L
化膿性膝関節炎の、洗浄ドレナージ術で推奨されている洗浄量が8Lであるとのことですので、だいたいそのくらいの肌感覚で考えて良いと思います。
動物咬傷だけは消毒液を用いて高圧洗浄する
動物咬傷の場合は、感染リスクが桁違いですので特別な注意が必要です。
参考文献1では、10:1もしくは20:1に薄めた10%ポビドンヨード液と、19Gの針を取り付けた20mlもしくは35mlシリンジを用いて高圧洗浄を行うことが推奨されています。
ただ日本では19G針も35mlシリンジもないので、18G留置針の外筒を取り付けた50mlシリンジや、20G留置針の外筒を取り付けた20mlシリンジなどで代用することになります。
実臨床では、ヨードを混ぜた生食2Lを用意し、皮膚洗浄に500mlを使用し、創内高圧洗浄に残りの量を使用する、というようにするといいかもしれません。
汚染創は比較的多めに、単純な創は少なめに
汚染創は生食もしくは微温湯1〜2L、50mlシリンジにカサをつけて、通常の創であれば100〜200mlの生理食塩水で洗浄すると良いでしょう。
生理食塩水の方が浸透圧の関係上、洗浄時の疼痛が少ないので、100ml程度であれば生理食塩水を使ってあげても良いのではないかと考えています。
ちなみに、生理食塩水と水道水では、洗浄による感染予防効果に差がなかったとの報告がありますので、生理食塩水の効果は単純に疼痛緩和のみと考えて良いです。(Cochrane Database Syst Rev . 2022 Sep 14;9(9):Water for wound cleansing.)
6. 創の局所評価
創の局所評価では、創の部位、性状、深達度、範囲を確認します。フラップ(皮膚や組織の一部が生きている状態で取り残された状態)の可能性も考慮します。
7. 異物の探索
異物が創内にある場合、適切な処置が必要です。無機物は残しても問題ないことがありますが、鉛や錆びた金属には注意が必要です。有機物は肉芽腫となりやすいため、確実に摘出したいです。必要な場合、X線やエコーを使用して異物を確認します。
アメリカでは、救急外来での処置に関する訴訟の多くは創傷処置に関するもので、なかでも残存異物によるものが多いそうです。
自分の身を守るためにも、しっかり異物を探索するのはもちろん、十分に探索しても発見できない異物が残っている可能性について患者さんに納得してもらう必要があります。
8. 縫合法とドレッシング材
傷口のドレッシングや縫合法は、傷の性質に応じて選択します。よく使う縫合法には単結節縫合、角縫合、半埋没マットレスなどがあります。
縫合法に関しては、また別の記事でまとめることにします。
ドレッシング材は、基本的には初日は軟膏+ガーゼ(創部に固着しないように軟膏はたっぷりつける)、翌日からはハイドロコロイド材を用いるようにしています。
抗菌薬入りの軟膏を使うことが多いですが、これは感染予防というよりは創部保護の意味合いが強いです。
滲出液が多ければアルギン酸塩+フィルムをつかっても良いです。
以上、創処置の基本についてまとめました。
今後さらに追記を重ねて充実させていく予定です。
おしまい
コメント